「自閉症者は香りに対する反応が真逆になることもある」という実験を知って少し気になったことがあります。
私がアロマに興味を持ったきっかけでもある「ローズの香りでオキシトシンが増える」というのは自閉症には当てはまらない可能性があるのでは?ということです。
自閉症改善への有効性が期待されるオキシトシンをアロマセラピーで増やしたいという思いはむなしい希望なのでしょうか?
自閉症者は匂いに対して強い興味を示す
音が苦手、味覚や触覚などにこだわりが強い、動くものが好きなど、特定の感覚が過敏だったり、逆に鈍感だったり、自閉症者は感じ方が独特だと言われます。
その中で、嗅覚は本能に直結した原始的な感覚で、自閉症者は健常者よりも匂いへ強い興味を示す場合が多いようです。
ほとんど興味のないものに意識を向けさせるというのなら無理がありますが、興味のあるものに意識を向けさせるのならハードルはぐんと下がります。
健常者とは反応が違ったとしても、嗅覚の可能性がなくなるわけではありません。
ただ、「この香りはこんなときにおすすめ」「この成分はこんな作用がある」という情報が通用しないかもしれないということだけは心にとめておかなくては、香りの活用が母にとっても子にとっても意図しないストレスを引き起こしてしまいます。
発達障がい者にとって香りの効果に正解はない
発達障がい児を育てるお母さんでアロマを日常で活用しておられる方から興味深いお話をお聞きしました。
お子さん(ADS)がマンダリンの香りを極端に嫌うというのです。
オレンジスィートを初めとする柑橘系の甘くてフルーティーな香りは、親しみやすい香りで好感を持つ人が多く、一般的にはリラックス効果があるとされています。
そのお子さんも、他の柑橘系は問題ないのに、なぜかマンダリンだけは隣の部屋から漂ってくる香りにさえ「臭い!」と言って拒絶するそうです。
このことは、どう考えるとよいのでしょうか?
まず、分かるのは、香りに対する感覚の鋭さです。
「柑橘系」でひとくくりなのではなく、それぞれの香りの違いをしっかり感じているということ、また、隣室から漂ってくる程度の香りにも反応しているということなので、香りに対して敏感なのだと思われます。
そして、なぜ、マンダリンだけ極端に嫌がるのかということについては、2つの可能性が考えられます。
ひとつは、マンダリンの香りが嫌な経験や記憶に結びついていて、香りによってそのことが思い出されるためその香りが嫌いである可能性です。
マンダリンそのものを食したことがなくても、嫌いな人や場所の記憶と香りが結びついている可能性もあります。
私たちも、香りそのものはいい香りであっても、会社で苦手な上司がつけている香水の香りなどは妙に落ち着かない気分になることがありますが、それと同様です。
もう一つの可能性は成分への反応です。
柑橘系の精油にはリモネンなど、共通して含まれる成分も多いのですが、マンダリン(完熟の原料から抽出したマンダリンレッド)だけの特徴的な成分にメチルアンソラニル酢酸メチルがあります。
含有率は、わずか0.3パーセントと微量ですが、強い緊張緩和をもたらす成分です。
成分による反応は、香りの記憶や好みとは関係なく、無意識に起きるものなので個人差は少ないはずです。
でも、先の記事で紹介したように、発達障がい者の場合は、脳の神経伝達のエラーによって、本来緊張緩和をもたらす成分が不快な興奮を引き起こしている可能性も考えられると思います。
香りの成分による効果として一般に知られていることが当てはまらないからこそ、香りの経験を積み重ねて、どんな香りにどんな反応をするのか観察しながら日常に取り入れていくことがよいと思います。
日常の中の香りの経験
「香りの経験」なんて言うと、すごく特別で面倒なことのように感じるかもしれませんが、いい香りも悪臭も、日常の中に匂いはあふれています。
でも、私たちは嗅覚より視覚情報を優先しているので普段はあまり意識することなく、当たり前にやり過ごしているのです。
そこで、意識を少し嗅覚に集中してみると、色々な発見があります。
(鼻で発「見」というのも語感としてはおかしい気もしますが…)
毎日通る近所の道でも、パン屋さんの匂い、たこ焼き屋さんの匂い、よその家の庭に咲いた花の匂い、すれ違った人の香水の匂い…色々な匂いを感じることができます。
食事の前に、素材や料理の匂いを嗅ぐのも食べる楽しみを膨らませる香りの経験です。
脳の神経細胞は、ある年齢を過ぎるとどんどん死滅していくそうですが、嗅覚は生命維持に直結する感覚なので、嗅覚細胞は再生します。
日常の中で香りに意識を向けるようにしていくと、嗅覚はどんどん研ぎ澄まされていくのです。
「アロマセラピーやってみよう!」といきなり精油の香りを試す前に、ぜひ、意識的に香りの体験をしてみましょう。
様々な香りを体験することで、自分の気持ちを表現することが苦手な子どもたちの好きな香り、苦手な香り、思いがけない反応などたくさんの発見があります。
でも、私自身もその時の心や身体のコンディションによって、心地よさを感じる香りは違うし、子どもたちの反応もいつも同じと決めつけず、フラットな気持ちで観察することで気づくことはさらに増えるでしょう。
「アロマセラピー(アロマテラピー)やろう」と構えてしまうと、面倒くさい、難しい、お金がかかると尻込みしたくなりますし、健常者と同じ効果がないかもしれないなどと聞くと、がっかりするかもしれませんが、言葉に反応しない子どもも香りには反応してくれます。
だから、香りはコミュニケーションを広げるツールだと考えて、料理のスパイスの香り、食後のフルーツの香りなど身近なものから楽しんでいけたらいいと思います。
それも、アロマの活用のひとつだと思いますから。
まとめ
自閉症や発達障がい者の場合、香りに対する反応は、健常者とは異なる場合があります。
でも、日常の中で香りの経験を重ねながら様子を観察し、香りをコミュニケーションのひとつとして楽しんでいけるとたくさんの発見があるでしょう。