自閉症者は香りに対する反応が真逆になることがあります!

香りが心や身体に作用するメカニズムの説明の中で、「いい香り~」と感じることで自律神経が整うと書きましたが、それだけではありません。
実は、「香り」として意識しないレベルの成分を私たちは感じ取っていて、身体は無意識のうちにその成分に反応しています。「香り」としては意識しないため、経験や好みなど個人的な要因に左右されることはなく、成分に対して同じ反応が起こります。
でも、最近の研究では、自閉症者の場合はこの反応が違ってくることが分かりました。

においを感じるしくみ

自閉症者の匂いへの反応の特異性を紹介する前に、まず、私たちがにおいを感じる仕組みについて説明します。

人は、約400種類の嗅覚受容体を持っていて、その組み合わせによって数十万種類のにおい物質をかぎ分けることができます。
鼻から入ったにおい物質を鼻の奥の粘膜の嗅上皮がキャッチします。
におい物質が嗅上皮の粘膜に溶け込むと、嗅細胞にある嗅覚受容体がその情報を電気信号に変換します。
その電気信号が嗅神経、嗅球、脳(大脳辺縁系)へと伝わり、私たちはにおいを感じることができます。


嗅神経から嗅球に伝わる際に、その匂い情報はその化学構造によって嗅球表面の特定の標的に投射され、脳の「匂い地図」を形成するといわれています。

…ちょっと難しいですね。
個々の嗅細胞はそれに対応した嗅覚受容体があって匂いの情報はそれぞれ脳の決まった場所に伝わり作用する、つまり特定の匂いが特定の反応を引き起こすということでよいのでしょうか?
この仕組みは、におい情報の化学構造に基づくものなので、においに対する個人の好みや経験とは無関係で「におい」として感じられないレベルの情報にも当てはまると思われます。

匂い地図の案内人 BIG-2

鼻から入った匂い分子の情報を正しい場所に伝えて、匂い地図を形成するために重要な働きをするのが「BIG-2」という神経軸索ガイド分子です。
言葉は難しいけど、匂い分子の情報を脳内の決まった場所に案内してくれるイメージだと思います。


この匂い情報の入力が正しく行われることで、私たちはそれに対する正しい行動という出力ができるということですね。
ところが、この案内人「BIG-2」が欠損したマウスの場合、匂い分子の情報を正しい場所に案内することができなくなるそうです。
そうなると、情報に対する反応や行動もエラーが起きてしまいます。
自閉症者と「BIG-2」異常に直接的な関連があるかどうかは分かりませんが、原因はどうあれ、自閉症者は正しい脳内匂い地図が形成できないのではないかと思わせる興味深い実験があります。

スカイダイビング中の恐怖の汗の匂いへの反応

スカイダイビング中の汗を集め、正常な人と自閉症者にそれぞれ嗅いでもらう実験で、皮膚反応を調べることで自律神経の興奮を測定すると
正常な人は自律神経反応があるのに対し、自閉症者はこのような興奮がないという結果になりました。(イスラエルワイズマン研究所)
また、リラックスする物質についても、自閉症者は異なる反応が見られました。
この実験についての詳しい内容はこちらのリンク先をご参照ください
→自閉症の社会性の変化は匂いの回路に起因する?

自閉症者は香りに対する反応が違う

アロマセラピーでは、精油の成分による効果効能が研究されていますし、自律神経への作用など本やネットにたくさんの情報があります。

でも、自閉症など、脳の機能に障害がある場合、その常識が当てはまらないことがあるということを知っておかないといけないと思います。
スカイダイビングの汗の実験のように真逆の反応が起きると、期待した香りの効果が得られないばかりか、却って逆効果になってしまうかもしれません。

私は、これまで、香りに対する反応の違いは刺激に対する感覚の違いによるものだと思っていたのですが、神経回路のエラーだというのは驚きでしたし、香りを扱うものとして重要なことだと思ったので、頭から煙が出そうになりながらこの記事を書きました。

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